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妹が殺された兄が,二人の容疑者のうちどちらが犯人かを決めかねるお話。だからといって結末はどちらでもとれますよ,といったリドル・ストーリーではありません。細かな記述を読みとっていくと,正解が浮かびあがってきます。作者が読者に隠し事をしていないという前提においてですが。ラストの動きのある描写が秀逸です。それだけに,加速しながらワープに突入する宇宙船のような文章がすっ,と終わった後,必死になってページをめくり返してしまうのでしょうね。
ちなみにリドル・ストーリーの例として取り上げられる機会が多いのストックトンの『女か虎か』のあらすじとは,
ある男が王の娘と恋に落ちました。ところが王の怒りに触れ,死刑を宣告されます。
慈悲として、男には選択肢が与えられました。刑場には、扉が二つあります。
一つめの扉の向こうには,国でもっとも美しいと言われる娘(王の娘ではない)が,
もう一方の扉の向こうには,狂暴な虎が腹を空かせて待っています。
娘のいる方を選べば,男は死を免れるかわりに,王の娘ではなくその娘と結婚することになります。
どちらの扉なんだ・・・決めかねた男は刑に立ち会っていた王の娘のほうを見遣りました。
王の娘はちらり,と片方の扉に視線を向けます。
男は迷わずその扉を開けました。
中にいたのは?
主人公「崇史」と,その親友の「智彦」,ヒロイン「麻由子」3人の三角関係が物語の中心です。タイトルの通り,パラレルワールドが出てきますが,これは仮想現実によるパラレルワールドです。登場人物が同じで人間関係が違う世界が交互に書かれています。そのどちらが本当の世界なのか? はじめはそこに考えがいくものの,すぐに分かるでしょう。なにせラブストーリーですから。主題はそこです。巧いな,と思うのは,物語の冒頭と結末の符号です。プロローグで,崇史と麻由子は併走する電車の窓を通して知り合います。ただ気になって見つめ合うだけの関係です。しばらくして,智彦が紹介する恋人が,麻由子なわけです。
最後になって,崇史は麻由子に聞きます。「あの時君は,向こうの電車から,俺のことを見ていたんだろう?」 この一文だけで,名作たるほどの切なさを与えてくれます。
推理小説の「掟」を揶揄する作品です。揶揄をする登場人物は名探偵「天下一大五郎」とお約束の刑事「大河原番三」です。天下一と大河原警部はそれぞれ推理小説という檻の中で役割を演じている設定です。舞台劇のようなものでしょうか。ときたま「まったくこんな馬鹿げたトリックがあるものか」「まったくだ」とキャラクターの述懐が入りながら,一応殺人事件が起こってトリックがあり,それを解くわけです。もともとが時期をおいて発表された短編なので,一気に読むとかなりくどく感じます。「密室」「”私”が犯人」といった定石を,天下一と大河原警部は嘆くのです。さすがに夢オチは出てきませんでした。ただし,トリックそのものを嘆く訳ではありません。必然性があるのか? 映像にしたときにどうなるのか?
短編集ですが,最後に結末を用意してもいます。これをそれなりの衝撃をもって読むには,一気に読んだ方がいいかもしれませんね。くどいですが。
この作品で,東野圭吾が書く青春推理の虜になりました。とにかく登場人物がリアルです。誰しもが傷を持ち,死すべき存在として描かれることを待っています。女子校の先生が主人公で,いわゆる相棒役に刑事が出てきます。当然,作品を彩る高校生もです。中でも高原陽子という謎めいた少女の役割は面白く,切ないです。主人公に好意を寄せ,物語冒頭で旅に出ようと誘います。これを主人公はすっぽかすのです。実はこの主人公の行為も,ラスト・シーンの伏線になっています。動機を読んで,主人公と同じ痛みを感じられるかどうかがカギでしょう。頭では理解できますが,体で感じられませんでした。残念です。
切なさ爆発の一冊です。終わり。というわけにもいきませんね。主人公の恋人が交通事故で死亡,その恋人は誰かに追いかけられて道に飛び出し,トラックにはねられます。追いかけたのは誰か? そして第二,第三の犯行が・・・と一見ありがちですが,序盤でいきなりひっくり返します。主人公は恋人を愛してはいなかった。周りの人間は主人公を悲劇の英雄扱いをするというのに。相変わらず(?)主人公は憎むべき存在です(笑)
とにかく登場人物のセリフが秀逸。わずかなセリフから背景がぱたぱたと組み上げられるかのような錯覚を覚えます。そのぱたぱたからすぐに犯行の詳細が分かってしまうので,あとはもうラブ・ストーリーです。水村緋絽子という主人公の元恋人がよく描けています。それだけに,恋人だと思いこみながら死んだ由季子が(ToT)
放課後,同級生に比べると切なさは少なめ。『どちらかが彼女を殺した』で主人公と推理合戦をする加賀刑事の学生時代のお話です。やたら図が出てくるにも関わらずあまり深い意味もなく,トリックもすぐに分かるものです。分かっただけに,混乱したという話も。薬物の扱いもなんだかいい加減で,未来の加賀刑事の魅力も半減。動機がしっかりしているだけに,残念です。