おそらく最後の夢旅行
部活動の行事で北海道に行きまして、その帰りに旅行をしてきた次第です。宿泊と車中泊を併用した6日間。暑い熱い北海道でした。
1997.7/22・・・札幌-富良野-旭川
1.旅の始まり=フォルテ
部員として泊まっていたホテルをチェックアウトして札幌駅へと向かう。レンタカーを利用したグループ旅行の始まりだ。総勢18人、目指すは富良野・ラベンダー畑とふらのワインハウス。高速道路を降りてラベンダー畑そばの駐車場へ車を止め、遊歩道をしばらく歩く。ほのかな香りが鼻をくすぐり、蜂の羽音が耳元を通り過ぎていく。「ラベンダー畑、か」パンフレットで見た光景が目の前に広がる。が、スケールが小さい。せいぜい500m四方ほどの紫海。拍子抜けはしたが、がっかりというわけでもない。その色彩はうす味のスープのように優しく、香りは深呼吸に丁度良い。ただ思い知らされたのは、自分がパンフレットやガイドブックをな~んにも考えずに眺めていたという事実だ。
ラベンダーアイスを食べる。友人が「あまり美味しくないよ」といっていたのが気にかかる。数日前、夕張メロンソフトの美味しさに驚いていたのでとりあえず買ってみた。ふむ、美味しい。というかよく練り込まれた味だ。これ以上強めるといやみになるぐらいまでラベンダーの香りを強調しつつも、それがやや重目のバニラアイスに対するアクセントとしての役割を上手く果たしている。飽きのこない味でペロリといけた。
ふらのワインハウスへ移動。ワインの製造過程見学と試飲ができる。ラベンダー畑も併設しているので時間の無い人にはぴったりの場所かもしれない。中に入るとまず順路は見学コースへ。階段を下りワイン倉を見る。醗酵用のタンクを見る。階段を上る。以上終了。寂しすぎる。この造りに果たして魅せようという意志が存在するのだろうか。気を取り直して試飲。4種類のワインが置いてあり、その気になればいくらでも飲めるようになっている。ただ試飲用のプラスチックグラスを持ち帰るのは禁止されているようだ。さらっと4種飲んだだけでもう顔が真っ赤。そりゃ一気してるのと変わらないもんな。お子様の私はまだ赤ワインの良さが分からないので白を中心に責める。「うーん衝動買いするほどの味ではないな」と判断し何も買わずに出てきた。まだ旅は始まったばかりだ、余計な荷物を増やすことはない。送るという手もあるが、送料でもう1本買えてしまうのはいささかくやしい。
富良野駅到着。ここでグループは分裂し、「私たち」は5人になる。旭川へと向かい、そこで1泊するのだ。残りの13人もおいおい北海道各地へ、東京へと拡散していく予定。富良野駅の前に立ちレンタカーの隊列を見送る。ワイワイやっていたのが急に静かになり、なんとなく寂しい。人数のフォルテは今日でおしまい。これからは感動のフォルテが待っている。旭川での宿は旅館時屋。1泊2食付きで7000円なり。はっきりいってオススメの宿である。ただクーラーの効きがあまりよろしくないのが難点。私たちが北海道に滞在していたときはあいにくの猛暑。涼しさを実感できたのは釧路(後述)だけであった。
2.地ビール、バブル崩壊(寸前)
地ビール巡りの旅、始まる。旭川駅近くの「大雪地ビール」が起点だ。季節限定のビールとつまみを頼む。調子に乗って注文しすぎてしまい、「俺はこれは食わん」とか「おなかいっぱい」などと非難される。そりゃさっき宿で夕飯食ってるもんな~。そんなことは置いといて、ひとまず乾杯! むひょ、こりゃウマい。飲んでも飲んでもウマい。食べて飲んでもまたウマい。こりゃたまらんぜ! みんなで良い気分になって宿へ戻る。グループ特有の盛り上がりを見せつつ語り合ううちに、初日の夜は、ゆっくりと、じっくりと、更けていった。
1997.7/23・・・旭川-小樽-札幌-釧路
3.メジャーの意味=クレッシェンド
旭川を出て札幌へと向かう。特急に乗って到着した頃はもうお昼。まずは腹ごしらえだ。大通り公園をしばらく散歩する。噴水では子供がはしゃぎ、その姿と水しぶきの虹が目に心地よい。天気は快晴、随所に設置されている温度計は35度だったり28度だったり、とまあとにかく暑い。なんでも21年ぶりの熱波らしく運が悪いとしか言いようがない。噴水の脇で一休みして「だるま軒」へ向かう。サッポロラーメンといえばこの麺、「西山製麺」の傍系店だ。店の入り口に人を寄せ付ける魅力はなく、美味しいことを知っていなくては入る気は起きないだろう。しかしこれがウマい。麺の美味しさもさる事ながらスープが絶品なのだ。飲んでも飲んでも飽きのこない味がたまらない。私はチャーシュー麺を頼んだのだが、そのチャーシューが邪魔に感じるほどであった。食事で幸せいっぱいになれたのは久しぶりだ。
雪印パーラーに移動。天皇陛下も召されたというこってりとしたバニラアイスを賞味した。もう食べてばっかり。調子に乗ってコーヒーも飲む。こういうムダ(?)づかいが後になって重大な支障をきたすことになろうとは。最終日には帰宅するだけのお金しか残らないという事態を予測するには、あまりにも魅力的な街だった。未来の自分に随分借金をしてしまったな。
小樽へ移動。北一硝子で美しさにうっとり、値段にげっそり。なぜかドッと疲れる。「おたるバイン」にてワイン購入。「ケルナー」なる銘柄。荷物になるのは分かっていたが、その美味しさに思わず衝動買い。このワインとは旅行が終わるまでついぞ出会えなかった。良かった良かった。でも東京で買えそうな気もする。今度探してみよう。ワインを片手に運河へ。まだ日が高く、ガス灯の光が幻想的な夜の顔を見るためにベンチで休憩。運河沿いを歩いていく人達を眺めながら物思いに耽る。
地ビール巡りの旅・第二弾。ドイツ語で装飾された店内、小樽地ビールを堪能する。またこれがウマい。チーズとの相性が抜群だ。これ以来、私の中では「酒のつまみ=チーズ」という短絡的公式が成立。「ヘレス」という銘柄があいにく品切れ。うーん残念。それだけ美味しいということではないか~。ほんのりと紅くなり店を出る。友人が精算したのだが、酔った勢いで「ドイツ語による勘定精算」を試みたようだ。「ツゥ・ザーメン、ビッテ(一緒に精算、という意味)」 店員激怒、はたまた誤解か? 作戦遂行、レジのお姉さんごめんなさい。だって、コックもドイツ人なのに。
ホロホロとアルコールがまわり、夜も更け、運河に夢が集まる。商売する写真家、騒ぐおばさん、しみじみ老夫婦、そして、しっとりカップル。「メジャー」な場所だ。が、嫌味が無い。全てを包み込み、風景に還元してしまう。メジャーにはメジャーなりの魅力があることを再認識。有名万歳! 心満ちて札幌へ。そこから釧路までは夜行列車の旅である。紙スリッパに空気枕、装備は万全だ。後は寝るだけ。さまざまな思いをのせて、汽車は疾走する。夢と、現実と。
1997.7/24・・・釧路-釧路湿原-摩周湖-釧路
4.シマリスって英語で何て言うの?
大垣夜行での悪夢は再来せず、なかなかよく眠れた。旅の資本はまず健康。寝不足では観光の消化に走ってしまう。この日の移動手段はレンタカー、またひとつ夢の中へ。車はいいよね。旅のアクセントは多ければ多いほど良い。自分達の自由になる交通手段を持っていることへの安心感がたまらない。ただこれは乗っているだけの人に当てはまる話し。5人いるうちドライバーはたったの1人。しかも初心者マーク(失礼!)必須である。思ったよりも交通量が多い釧路市内。車線変更は後手後手にまわりかなりスリリングだ。「ひょぇー」だの「恐いよ~(ドライバー談)」などと悲鳴が飛び交う。北海道らしい道路がまっすぐ延びている。制限速度を守り、次々と追い抜かれていく我々の車。朝は初心者でも昼にはもう中級者、人並みにスピードを上げ、釧路湿原へ。
釧路市湿原展望台へ到着。湿原を探索するための基地となる施設である。とりあえず展望台に昇ってみるがあいにくの濃霧。とにかく散策だ、ということで遊歩道を歩くことにする。木の板で舗装された道を進んでいくが、蝶が乱舞しブヨが腕を刺す。そこでまくっていた長袖を伸ばして防御。下りの道をズンズン進む。湿原に向けて下りているのだ。地図を見ると展望台を起点に一周するコースで、湿原の中を横切る道はただひたすらまっすぐ書かれている。最初は「枠」かと勘違いしたくらいだ。5人で行動しているがいつのまにか私ともう1人が先行する形になっていた。湿原を横断する道へでるかでないかの角を曲がったとき、何かが木の手すりの上にいた。一瞬、時間が止まる。そこにいるものと対峙してコンマ数秒、「・・・・リスだリスだ!シマリスだぁ~!」2人して狂喜乱舞、はっきりいってうるさい。「え、なになに?ホント!」と後続の3人も慌ててやって来るものの時すでに遅し、シマリスは湿原の中へと消えていった。シマリスさんて以外とデカいのね。
釧路湿原横断耐久レース。あまりの暑さに生命の危険を感じる。ほんとに長い道だ。いろんな鳥が様々な鳴き声を奏でているのだが、もはや耳障りである。ただの獣道のような道。前を見ればまっすぐ地平線へ消えていき、後ろを見てもそれは同じ。のんびり散策するはずが、もはや無口になってただ歩くだけ。歩く歩く歩く。様々な想いと会話。ある者は1人で、ある者は2人で。
ついに上り坂、展望台へのコースに入った証拠だ。今度はひたすら上る。ふと視界が開けたとき、今までの苦労が報われた。ついに湿原が我々の眼前にその姿をあらわしたのだ。木々の間から垣間見られるだけだが、すでにその雄大さは圧巻、である。さらに上り、「あおさぎ広場」に到着。もはや視界を遮るものは何も無い。見渡す限り釧路湿原。さっきまで歩いていた道が1本の線となって湿原に刻まれている。「おー、シマウマだシマウマだ!(ウソ)」「キリンだキリンだ!(大ウソ)」、またもはしゃぐ我々であった。そして展望台に戻る前に「サテライト展望台」に寄り道して再度景観を満喫した後に若干の休憩を取る。摩周湖への道はまだまだ遠い。
5.「カムイ・トゥ」
我らがミラージュはメイン・イベントに向けてひた走る。まだまだみんな元気、にぎやかだ。途中コンビニに寄り昼飯を調達。鋭気を養い、来るべき事態に備える。下手をすると「霧の摩周湖」になってしまう、そんな恐れもあり、まだ何となくすっきりしない気持ちが胸にこびりついていた。そして遂に、第三展望台到着。第一展望台よりも標高が100m程高くツアー客も少ない穴場である。駐車場に車を停め、道を挟んだ斜面に作られた溝のような道を駆け上る。一気に視界が開けた。「うおぉぉぉ!!すげぇぇぇぇ!!!!」、思わず絶叫する先行していたO氏。某大学吹奏楽部学生指揮者、熱い男である。「しかし、こ、これは・・・何だ、何なんだ!」、すぐに言葉を失う。視力が聴力に打ち勝つ瞬間。あまりの光景に何も聞こえないような錯覚に襲われる。湖面に降り立つことを阻む原生林。青い湖面。これ以上ないほどの絶妙なバランスで位置する島、「カムイ・シュ」。
6.釧路市内、霧笛の響き
一転、夜の静けさ。とにかく穏やかな町だ。インターネットで下調べをしておいた「ピノキオ」という洋風居酒屋で夕食。手書きイラスト満載のメニューにビックリ。最後のページにコックの紹介文が自筆で書いてあるのもまた一興。ひとひねりした品揃え、しかも安い。実際に料理が出てきて「???」。やけに量の多い皿が1つ。まさか、3人分まとめられたのか? 一瞬顔が引きつる。すると、後から2つの皿が同じ量で運ばれてきた。これが1人前!? 釧路万歳! その量にしてこの値段、そしてこの味! うーん、言うことないっす。食を引き立てるカクテルがまた絶品。飲んだのは「柚の初恋」「エンジェルハート」の二種類で、それぞれジンベースとラムベース。後者のグラスはハート型。その上にサーベルの形をした楊枝がチェリーを貫いて置いてある。エンジェルはエンジェルでもキューピッドなのね。他にもいろいろあったのだけれども、所詮この旅行は貧乏旅行、理性が打ち勝ちオーダーストップ。これを読んでいるみなさんへ。「釧路に行く折りはぜひお立ち寄りください」。ちなみにチャージは400円。満足して店を出て、財布の中身以外ははちきれんばかりの我々。さらに寂しくなった市内をより物悲しいホテルへと歩く。ホテルに着き明日の作戦会議。「そうだ、ノサップへ行こう」、賛同者ゼロ。ついに一人旅、しかも日本最東端のノサップ岬へ。夜が明けてホテルをチェックアウト。鳴り響く霧笛の中を釧路駅へと急ぐ。濃霧、曇り。
7.納沙布岬一人旅-前編-
いかん、寝坊した。急がねば。なにぶんこの列車を逃すと次まで2時間近く待たねばならない。しかも岬に30分しか居られない。指定席券を取ってあるミッドナイト号に乗るにはその旅程が必須なのだ。泊まっていたホテルは釧路駅の改札と反対側にある。荷物が肩に食い込み、とてもじゃないが走ることは無理。ん、そういえば昨日散策したときに「西口通り」っていう道があったな。ということはこっち側にも改札があるのかしらん。おっ、高校生が歩いてる。ついていこうっと。ふむふむ、こう行くのね。あらサラリーマンもいるじゃない。てくてく歩く。これなら間に合いそうだ。あり、駅舎が無い。げ、改札も無いぞ。みんなが吸い込まれていくあの入り口は・・・地下道だ! ぬおぉぉぉ!!しまったぁぁぁ!!! とりあえず走る。地下道をくぐり、さらに改札を目指す。見えてくる電光掲示板。「な、無い・・・行っちまったか」朝からいきなりブルー、自己嫌悪の極みである。今日という日は1日しかないのに寝坊で予定を狂わすとは。柱の脇に荷物を置き座り込む。「時間足りないし、霧多布にしようかな」、超弱気。しかし、止まない雨はない。行くぞ、納沙布。だいいち行かなかったらウソつきそうだし。「いや~良かったよ、さすが日本で1番東!」などと、とりつくろう自分が目に浮かぶ。さて、どこで時間を潰そうかを考え始める。喫茶店にでも行くか、と市街を散歩開始。こだわりのありそうな店に入る。まだお客さんは居ない。様子からすると私がこの日最初の客のようだ。モーニングセットを頼み置いてある週刊誌を読む。全てが手作りのトーストとベーコンエッグ、サラダ。そして、煎れたてのコーヒー。美味しい。乗り遅れたイライラがスッと消える。ああ、幸せ。
快速ノサップが根室に向けて発進。シーズンということもあり、車内は満席。人の少ない気動車の中でたそがれる計画はいきなり挫折し、根室まで喧騒に包まれたままの旅になってしまった。その観光客らしき人々は、根室の駅へ降り立つと次々姿を消していく。岬行きのバスに殺到するに違いないとふみ、慌てて乗車券を買った俺の立場は? ま、空いているにこしたことはない。同乗者はわずかに6人。折り畳み式の自転車を持ったおじさん、ヤンママお子様付き、野郎同士の2人連れ。この野郎同士の2人連れが曲者で、どうも自分達の旅に納得がいっていない様子。「なんでお前なんかとトホホだぜ」ムードを演出していること甚だしい。さらに切符を買ってきた男Aが「買ってきたぜ往復」と言うと男Bが「いくらだった」と言い「2080円」と答えおいおいそれは額面どうりでホントは割り引かれてるだろまったく差額を着服するな!といきなりブルー。
グループから離れて一人旅、根室、目指すは日本国最東端の納沙布岬となればいきおいメランコリックな気持ちになる。そんなこととは関係なくバスは淡々と停留所を通過していく。のんびりと海を眺めているといきなり「北方領土奪還」の看板が目の前を通り過ぎていった。「北方領土返還」という語句に慣れているせいか妙にどぎつく映る。そうか、返還ではなく奪還なのかとしばし考え込む。敗戦を終戦と呼ぶのと似たようなものだろう。細い道が半島を貫き岬へと続いている。風がひときわ冷たくなった時、アナウンスは告げた。「次は納沙布岬、終点です」