京都に到着し就職活動を終え、旅が始まった。初めは鈴虫寺(苔寺)に行こうと思っていたが、バスの時間が合わなかったので予定変更、清水寺に向かう。面接の際に画竜点睛を欠いたこともあって、「清水の舞台から飛び降りる気持ちで」という言葉どおりの心境。京都市外を眺め、絶壁の下を見る。そばにいる老夫婦が「昔見たときはもっと高く感じたんだが・・・」と話し合っているのが耳に入る。もう一度下を見るが、やはり目がくらむほどの高さ。まだまだ若いということか。少し奥へ進むと、中学生がつまらなそうな顔をして舞台の脇に腰を下ろしている。耳をそばだてると「こんなもんに200円も払ったのかぁ」とつぶやくのが聞こえた。「まったく風流を解せぬ奴め!」と憤りながら歩き出す。しばらくして、「いや、まてよ、自分だってあの頃にはそう思っていたような気もするな」、と我が傲慢さに呆れる。
舞台を横目に降りていく。そこにあるのは音羽の滝だ。修学旅行シーズンということもあり、小中学生でいっぱい。列になって水を飲む彼らを眺めているとなかなか面白い。私の横に引率の先生らしき人がいて、その光景を見ながら一言、「アムラーの滝だな・・・」。滝の下で狂乱の宴を繰り広げる子供たち。三本の水流が流れ落ちているのだが、それぞれに「人生・恋愛・学業」という意味がある。ある男子生徒が叫ぶ。「やっぱり男は真ん中でしょ!!」。うーん、女難の相があるぞ。
清水坂を下りつつ土産物屋を物色。西陣織のネクタイを買う。バス停に着き、適当なバスに乗った。市バスの一日乗車券を買っているのでぜひとも元を取りたいところだ。夕方になり空席が目立つ。思いのほか座り心地が良く、すぐにうとうとし始めた。「zzz・・・・zzz・・・・」目を覚ますと見慣れぬ風景が広がっている。「しまったぁ!乗り過ごしてしまったぁぁぁ!!!」仕方が無いので京の町並みを拝見。結局京都駅に直行。
帰りの新幹線はちょっぴり奮発し指定席。せっかくだから、ともうひと奮発して食堂車でディナー。ハンバーグセットの味は平凡だったものの、至福の時間を過ごす。体に軽くかかるGが魔法をかけたようだ。妙にゆったりとした気分でミルクティーを飲むと、色々なことが頭の中を駆け抜けていく。心にさざなみが押し寄せてきたところで席を立った。戻る途中で個室のグリーン車を試乗。窓に向かって備え付けられているソファは、まるで社長の椅子のようだ。そうこうしているうちに恐くなってきた。グリーン料金を取られてはたまらんと、慌てて退散したのは小心者の証しであろう。
自分の席に戻ると、買っておいた週刊ポストが無くなっていた。どうやら持っていかれたらしい。自分の不用心さを戒めつつ、下りる支度をした。東京駅は相変わらずの三角ドームをたたえている。本来の丸ドームを修復する計画はないのだろうか、今の屋根なんて熔けた鉄骨がまだ使われているのに、などと埒も無いことを思いつつホームへと下り立つ。埼京線で帰ると日常が情け容赦無く襲ってくるので、三田線で帰宅。私を待っていたものは今日の面接通過の知らせであった。もう一度京都に行くことになりそうである。