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*プロの卵-1997/12/17-

 部活を引退して3週間がたとうとしている。まだアンサンブルコンテストの都大会やら3月の演奏会やらで楽器を吹く機会はあるものの、定期以来いちども楽器を手にしていない。学校の楽器庫に置きっぱなしだ。吹かなくなるとどうなるか、聴きに行くのである。今日は洗足学園短期大学の演奏会に足を運んでみた。吹奏楽を授業としてやりながらプロを目指す音大生たち。彼等が私にとって良い演奏をしてくれるときはどんなときか。我を忘れたときである。冷静に演奏していても所詮はプロ予備軍、自分の音を商売道具としているのが鼻につく時が多い。俺も俺も私も私も僕も僕も私が俺が僕が・・・以下省略。アマチュアバンドのレゾンデートルが分かったような気がする。


*質と量-1997/12/23-

 母校の高校で記念演奏会が催されることになった。3部構成のうち3部ステージにおいてOB・OGとの合同演奏をするというのだ。原則として現役生が主体となるので運営面での口出しは一切禁止である。演奏技術に関すること以外はおいそれと助言も出来ない。あくまでもただのプレイヤーとしての協力を肝に銘じて参加することを決めた次第である。なにしろ○教大学の人やら豊○区吹奏楽団の人やら音大生やら私やらとノウハウを持った人間がわんさかいるOB会なのだ。一度口を開けば百家争鳴、現役は戸惑うばかり。

 そして始まった合奏。基礎練習が延々と続く。はっきりいってキツイ。「こんなにやってんのか!」と驚くとともに「こんなにやってるのに?」と湧き起こる疑問。ちなみに 今年度コンクールでの成績は銅賞。音楽をする気持ちに欠けているというわけでもない。練習時間が少ないわけでもない。足りないのはきっと、頭脳だ。現役にはいわゆる「音楽バカ」が1人もいない。音楽を教える顧問も異動となった。現顧問は「生徒が悪戦苦闘しているのを見ているのが好きなものですから」と一見良き理解者のように振る舞う。人それぞれの信念がある。


*ストリート・パフォーマンス-1998/1/1-

 年が明けるその瞬間、私は代々木公園で楽器を組み立てていた。ノリと勢いで集った5人の楽器吹き達。ユーフォニウム4本とトロンボーン1本というバランスの悪い編成だ。その編成をもって、人が帯となり参拝の列を作る明治神宮周辺でアンサンブルをやったのだ。バカは凄い。尊敬する。もし我々がそうなら原宿駅前で吹き倒し、テキ屋の側で出しまくったことであろう。が、いかんせん中途半端な常識が邪魔をする。駅前は警察にシメられる可能性大であり、テキ屋の側はそっちの方にシメられること間違いなしである。

 結局警官の許可を得たのは人通りの少ない歩道橋のたもと。とてもじゃないが立ち止まるスペースなどない。それでも歩道橋の上から声援が飛んでくる。この時間に初詣に来るのはしっとりと年を越すカップルと良質な暴走行為がポイント高い人々ぐらいなもので、演奏するには気楽な環境と言えなくもない。お正月にちなんだ曲を数曲演奏して収入は千円弱。パチンコ玉をぶちまけたような人込みを横目に取って置きの隠し玉を仕込まんと早々に撤収。

 その隠し玉とはSPEEDの「White Love」。もうひとつの候補「Can you celebrate?」は譜面が間に合わず断念。譜面起こしに数時間、練習に数十分、不安を残しつつドリカムのクリスマスツリーの前に移動して第二部スタート。SPEED強し!通る人通る人歌いながら通り過ぎる。さらには踊ってくれたりもする。今年もSPEEDは伸びていくんだろうね。私、ファンです(歌ですよ、歌)。

 ふと炉端に目をやるとカップルがひと組。「あぁ、さきほどの・・・」、思わず声を上げる。さっき代々木公園で練習している時に会話したカップルであった。なにやら中学の時に楽器を吹いていたらしい。ちなみに女性の方であって男の方はきょとんとしていた。「なんかアンサンブルやって下さい」、げ、譜面の用意が無い。こんなことならあーもうなんて気が利かないうちらなんだぁっっー、と頭を抱えているとユーホの2人が二重奏の譜面があると言う。以前、部内のアンサンブル大会で演奏した現代曲だ。はっきりいって面食らうようなドギツイ曲なのだ。じっと見つめながら聴いてくれる彼女。演奏が終わると「頑張ってください」、と千円をそっと置いてくれた。去っていくカップル。惚れたぜ、女にではなくそのカップルに。「なんだお前楽器やってたのかぁ」とでも言っているのだろうか、女の頭をくちゃくちゃに撫でながら歩いていく。かけがいのないお年玉をありがとう。末永くお幸せに。


*大雪-1998/1/15-

 首都圏在住の方、どうもお疲れ様でした。果たして練習を行なった吹奏楽部があったかどうかは分かりませんが、私は楽器を吹いてきました。アホです。邪魔です。いよいよ10日を切ったアンサンブルまでの練習日数、しかもあんまり練習に出ていない。楽器を吹くのを1日止めると3日分下手になるという警句通りにボロボロになっていく我が奏法。打ちひしがれて帰路につくと交通機関はズタズタ。頼むから火花散らして走らないで欲しい京王線。「ボンッ!」って爆発するような音がコワイ。さすが高圧高電流。どうもサイリスタがいかれたらしく奇妙な音が車内に響く(説明しよう。モーターの出力を調節する機械で「ヒュゥゥーン」とかいう音をたてるアレのこと。とても古い電車とかだと「ウゥゥーン」って低い音が出るけどサイリスタの方が省電力で効率が良い。)

 ちなみに集まった人数は8人中3人。はっきりいって来る方がおかしい。車に乗っけてもらって移動するんだけど町全体が狂ってておかしい。もはや吹奏楽とはなんの関係も無いけど、今日の狂ってた大賞は「チェーンの装着ミスで前輪がロックしたまま爆走していた軽自動車」に差し上げます。あのねえ、俺免許持ってないけど駆動輪にチェーンしないと意味無いことぐらい分かるよ。お前の車はFR車じゃ!


*第25回記念マーチング・バトントワリング全国大会コンテスト・グランプリ戦-1998/1/17-

 のっけから長いタイトルで申し訳ない。読んで字のごとく、マーチングとバトントワリングの全国大会である。楽器を吹き始めて6年強、一度も足を踏み入れたことが無い領域だ。なぜこんな話を持ち出してきたかというと、その大会にアルバイトとして関わったからである。吹奏楽関連で有名な某写真屋のアシスタントとのことだった。何やら「誘導をする」とのことだったのでスーツを着て武道館へ。路面は氷結、底冷えのする武道館に集合して若干の説明の後仕事開始。話を聞くと、どうも演技終了後の写真撮影の誘導が仕事のようである。部のOBの人が付いてくれているので右往左往することはなかった。

 ところがこのバイト、引き受けたことを後悔するに十分なハードさであった。まず、プログラムの初めから終わりまで休憩が無い。ずーっと流れていくのだ。昼食を取るための休憩も無い。それもそのはず、演技を見ながら飲み食いできるのである。しかし、裏方はそうもいかない。人員が余っている部署ならともかく誘導の係は3人しかいないのだ。「3人もいれば十分じゃないか」という声が聞こえてきそうだが、これがとんでもない重労働だった。楽器を持ったまま退場口にやってくる演技者達。体操と同じで退場し終えるまでが審査の対象である。今回初めて知ったのだが、ベリビックな絵を描いたパネルを使用する団体が結構ある。これが曲者だった。何せ楽器を持ったままの団体を地下1階の演技場から撮影場所まで誘導するということは、同時に楽器の搬出の誘導を意味しているからだ。武道館に行ったことのある人なら解って頂けようが、とにかく通路が狭い。人がすれ違うだけでやっとの通路にトイレがあったりする。しかも行列まで出来る。そこをでっかいパネルやらチャイムやらマリンバやらが通っていく。言葉は悪いが、かなり思慮の足りない連盟のようである。それを何とか運営しているのは実動部隊である我々だ。そこそこのノウハウを積み上げてようやくうまくいくようになると、きまって脳味噌の足らない役員が毒にしかならない改善策を出してきたりする。さらに本気でキレそうになったのは雨天への対策だ。写真の撮影場所は屋外で、その間楽器は吹きさらしである。当然、雨が降ったら濡れるしかない。金管楽器ならともかく、パーカッションを雨ざらしにするなど言語道断ふざけんな、である。雪解け水でびしょびしょの地面を避けて、車が停まっていた乾いている場所に一生懸命楽器を置いている高校生を見て一体何を言えばいいのか。「車が来ますから」と言うかわりに「ここで大丈夫ですから」と声をかけて運転手に泣きを入れるしかない。しばらくたってビニールシートを設置したが、はっきりいって遅い。これで雨でも降ったらどうするつもりか。案の定聞いてみると対応策は用意されていない。私は大会役員を「バカ」呼ばわりすることを自分に許した。

 こういうバイトはギャラが安くても「聴けるからいいや」と納得できるのがおいしいところだ。もっとも今回は外にいることが多く、まともに見れたのはゲスト出演の「綜合警備保障女子儀杖(本当はにんべん)隊」だけであった。演目はウォルトンの「クラウン・インペリアル」、グレンジャーの「リンカンシャーの花束」より「ホークストゥーの農場」など吹奏楽でおなじみのナンバー。音だけ聴いてもビューグル主体のよくブレンドされた素晴らしいもので、マーチング素人の私にも楽しめた。特に「リンカンシャー」は演技・演奏一体となって体の芯を貫き、泣けた。涙があふれてきた。

 その他の団体の演奏は音でしか聴けなかった。「ファイナル・ファンタジー」や「レ・プレリュード」が流れてきた時は疲れを忘れてニヤリとした。1番うれしかったのは、閉会式で「カンタベリー・コラール」が聴けたことだ。得賞歌の代わりに演奏しているのだ。演奏はもちろん「綜合警備保障女子儀杖隊」。音大生の集まりなのかと思いきや、マーチングの名門高校から引っ張ってくるらしい。どうりで若いわけだ。でもあれならお金を払って見に行ってもいいな。最後に「バトントワリング」だが、見ていないので分かりません。


*アンサンブル・コンテスト-1998/1/25-

 アンサンブルコンテスト東京都大会が終わった。金管8重奏で出場し結果は銀賞。ダメ金ねらいで練習したら見事にこの有様。やっぱり中途半端に練習したらしたで、それなりの結果がでるわな。すでに部活を引退した4年生が8人中6人。時間の調整が難しく全員揃うことはまれ。ちなみに全国大会への出場を決めたクラリネット4重奏は全員が4年生ながら、着実に練習を重ねて見事な演奏。「そりゃそうだよね、がはは」と笑い飛ばせるはずの審査結果がやけに胸につかえる。十分納得のいく審査、講評。やけ酒寸前の飲み会は壮絶な盛り上がりを見せ、終電を目指して深夜の新宿を猛ダッシュする。駆け込みに優しい最終に乗って一息つく。「楽しいのがいちばんさ。引退した途端にこういうこと言い出すんだよな。」酒臭い息と共に出てきたのは本心だった。


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